さて、彼らの冒険の物語をつづる前に、その始めの物語を語るとしよう。
何事にも順序があり、そして経緯があり、始まった理由…は無さそうだが、その始まりを知るということは何とも重要なことである。
それは、2008年の6月13日。いつもと変わらない、金曜の夜のことだった。
いつもと変わらぬ、五日間の地獄を抜けて、週末を迎えるべく、彼らは過ごしていた。
しかし、後に彼らはこう語る。
――――――――――『思えば、大学英語ⅠKの講義中に、既に異変が起きていた気がする』と。
その講義に出ている人間は数人だけだったが、しかし何かを予感させるには十分だったかもしれない。
その日、6月13日は、13日の金曜日。その不吉ともいえる数字とその日の講義内容が似通っていたために告げられた講師からの言葉は、『何が起こるかわからないので気をつけなさい』というものだった。
まぁ、当然のごとくそれをリアルタイムで告げられた時は生徒全員がちょっとしたジョークとして捉え、きっと…きっと、講師もそういう意味で言ったのだろう。と、信じたい。
そんなこんなでその後の講義も無事に終わり、一日を締めくくるべく、彼らは大学内の食堂に集まり、賑やかに夕食。となっていた。
最初にいたのは、二人。倉真と甲府。フルネームはのちほど。
いつも通りの夕食時間。その日のメニューが何かまで書く気はない。
ふと、甲府が視線をめぐらすと、見知った顔が見える。
「あ、本村君だ」
「お、まっちゃんもいる」
「ほんとだ。神薙君もいるね」
二人の視線の先には、三人の男子。どうやら、同じく夕食らしい。…とは言っても、この時間帯に、ここにご飯を食べにくる以外の目的でくる人間がいるとは思えないが…。
お疲れ、というねぎらいの声とともに、更に賑やかに。しかし彼らにとってはいつも通りの食卓風景(?)が広がり、そろそろ食堂も閉まるので帰ろうか。といういつも通りの展開。
食器を片づけてさぁ、食堂から出よう。となった、その時。
「あれ?本村君、どうかした?」
「……なんか、自動ドアが開かないんですけど」
食堂のドアは自動ドア。当然だが、それを自力で開けるなんて怪力自慢も真っ青な芸当をできる人間はここにはいない。
「え?何言ってんの?本当だ、開かない…」
………?
あ、申し訳ない。一人紹介するのを忘れていた。彼は茂沼。すっかり忘れていたが倉真・甲府両名とともに最初から食堂にいた男である。
「え、窓のところは?」
「開かないよー」
「……もしかして、閉じ込められた?」
…。
……。
………。
「うっそ~!?ねぇ、どうしよう?」
「そういえば、食堂の人いなくなってる…。これは孔明の罠か?」
「いや、孔明って…(汗」
「窓、割ったら?」
「いや、それはよくないと思う…」
ツッコミ役、ありがとう。君がいなかったら器物破損で色々と大変になってたよ。
しかし、出れないのも事実。そこで、甲府が出した妥協案は…
「シゲが割ったら?」
「え~…、やだよ~…」
茂沼に割らせることだった。なかなかにひどいとも思う。が、
「え?何言ってんの?割るしかないだろ。な、シゲ」
当事者以外の全員が、微妙な違いはあるものの止めもしなけりゃ何もしない。むしろその目がそれを推進していた。
「結局俺かよ…」
…。それでいいのか、茂沼。
続く。
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